リスペリドン(リスパダール)

1.リスペリドンの概要

2.リスペリドンの作用機序

3.リスペリドンの薬理学的作用

4.リスペリドンの適応疾患

5.抗精神病薬としてのリスペリドンの位置づけ

6.リスペリドンの副作用

7.LAI(Long Acting Injection)


1.リスペリドンの概要

 リスペリドン(製品名リスパダール®)は、1984年にPaul Janssenらによって開発された非定型抗精神病薬で、1994年に米国食品医薬品局(FDA)から統合失調症薬としての承認を受けました。現在、統合失調症の治療薬は非定型抗精神病薬ですが、リスペリドンは最も標準的な非定型抗精神病薬の1つです。抗幻覚作用・妄想作用は強いです。剤型は、錠剤、液剤、注射剤(LAI)があります。日本では1mg、2mg、3mgの錠剤、1mg/1mlの液剤、25mg、37.5mg、50mgの注射剤(LAI)があります。


2.リスペリドンの作用機序

 リスペリドンは、D2受容体と5-HT2A受容体の拮抗作用があります。D2受容体よりも5-HT2A受容体に対する親和性が高い。セロトニン神経はドパミン神経を抑制的に制御しているため、リスペリドンによる5-HT2A受容体の阻害により、セロトニン神経活動を抑制することにより黒質線条体でのドパミン分泌を促進します。そのため錐体外路症状の出現が少ないと考えられています。また、5-HT2A受容体阻害作用により中脳皮質系ドパミン経路の調節を介して統合失調症の陰性症状や認知機能障害を改善することも示唆されています。

 また、リスペリドンにはα1、α2受容体やH1受容体への親和性もあります。α2受容体への阻害作用が前頭前野でのノルアドレナリン神経活動を増強させることで、陰性症状や認知機能を改善させる可能性が示唆されています。α1受容体への阻害作用がドパミン分泌を抑制することで陽性症状の改善効果と関連している可能性も示唆されています。


3.リスペリドンの薬理学的作用

 リスペリドンは、肝臓の初回効果によって広範な代謝を受け、同等の抗精神病作用をもつ代謝産物9-ヒドロキシリスペリドン(パリペリドン:インヴェガ®として製品化)になります。リスペリドンは1時間以内に、代謝産物である9-ヒドロキシリスペリドンは3時間以内に最高血中濃度に達します。

 また、リスペリドンのBioavailability(生物学的利用能)は70%です。リスペリドンと9-ヒドロキシリスペリドンの半減期は併せて20時間なので、効果を貯めるための投与は1日1回で良いと考えられています。

 リスペリドンは主として肝臓のチトクロームP450(CYP)2D6によりパリペリドンに代謝されます。日本人ではCYP2D6の酵素活性が50%低下している人が半数程度存在しています。そのため、血中半減期が20時間を超える人もかなりの割合でいると考えられ、注意が必要となります。


4.リスペリドンの適応疾患

 アメリカでは、米国食品医薬品局(FDA)により、統合失調症と統合失調症以外の精神病性障害、双極Ⅰ型障害の急性躁病および混合性エピソードに対して承認を得られていますが、日本では適応は統合失調症のみとなっています。しかし、日本では統合失調症以外でも、双極性障害、大うつ病性障害、強迫性障害、せん妄、自閉症スペクトラム障害やパーソナリティ障害などで衝動性の強い患者さんで使用されることがあります。

①双極性障害

 日本では適応外使用ですが、臨床の場ではリスペリドンは双極性障害の躁状態に対して用いられます。双極性障害の躁状態の治療には、基本的に気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン等)が用いられます。しかし、こうした気分安定薬は効果発現まで1〜2週間かかります。気分安定薬単剤だと患者さんはこの間、躁状態が続いてしまいます。躁状態を鎮静する必要があるために治療初期には抗精神病薬が併用されることが多くあります。もちろん、リスペリドンは双極性障害躁状態に対する予防作用のエビデンスはないため、躁状態が改善した後は抗精神病薬は漸減しなければいけません。

②せん妄

 せん妄の治療では、しばしば抗精神病薬が使用されます。リスペリドンは比較的使用しやすい抗精神病薬であるため、せん妄でも使用されています。認知症に伴う精神病症状へも有効であると言う報告もありますが、高齢者では錐体外路症状などの副作用が出やすく、また脳血管障害や糖尿病、脂質異常症のリスクを高めたり、ふらつきにより転倒リスクが上がるなどの副作用もあるため使用には十分注意が必要です。できるだけ少量投与が好ましいです。近年は、せん妄の治療として半減期の短いクエチアピンが選ばれる傾向にあります。

③大うつ病性障害

 リスペリドンはうつ病や抑うつ状態の適応はありません。しかし、抗うつ薬の反応が不十分であった大うつ病性障害に対して少量のリスペリドンの併用が有効であったとの報告が多数あります。(※Goto M, Yoshimura R, Kakihara S, et al: Risperidone in the treatment of psychotic depression. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 30: 701-707, 2006)

 最近の報告でも難治性うつ病に対する非定型抗精神病薬併用の有効性が示された報告があります。(Nelson JC, Papakostas GI: Atypical antipsychotic augmentation in major depressive disorder: a meta-analysis of placebo-controlled randomized trials. Am J Psychiatry 166:980-991, 2009)

 こうした抗うつ薬のみでは改善が不十分なうつ病患者さんに、非定型抗精神病薬を少量加える治療法を増強療法(Augmentation)と呼んでいます。増強療法では、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬が用いられます。

④強迫性障害

 抗うつ薬に反応しない強迫性障害に対してリスペリドンの併用が奏効することがあります。Cochrane Database Systematic Review(Komossa K, Depping AM, Meyer M, et al : Second-Generation antipsychotics for obessive compulsive disorder. Cochrane Database Syst Rev Dec 8:12:DC008141,2010)では、抗うつ薬とリスペリドンの併用が強迫性障害の中核症状のみならず不安症状、抑うつ症状へも有効であることが示されました。

 私の経験上の話ですが、臨床の現場では、時折強迫性障害で治療している患者さんに統合失調症の精神症状を認めることがあります。恐らく強迫性障害と統合失調症は、はっきりと線引き出来る病態ではなく、スペクトラムのような状態、すなわち曖昧に混じり合っている状態が存在しているのではないかと思っています。強迫性障害から統合失調症に移行した症例も多々報告されております。そのため、強迫性障害で治療中の患者さんにおいても、統合失調症様の精神症状が出現した場合、リスペリドンなどの抗精神病薬を少量処方し反応を診ることも考えられますし、私の場合もそうした精神症状に対しては著効した症例経験が多いです。


5.抗精神病薬としてのリスペリドンの位置づけ

 非定型抗精神病薬の中で最も歴史のある薬であり、定型抗精神病薬に比べ副作用も少ないため、臨床の現場では最も使用しやすい抗精神病薬です。ただし、抗精神病薬には必ず副作用があります。1日の投与量が6mgを超えてくると、有害作用(副作用)、特に錐体外路症状の発生率が高くなるため注意が必要です。


6.リスペリドンの副作用

 抗精神病薬は一般的に副作用が必ず付いてきます。リスペリドンは非定型抗精神病薬であり、古い第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)に比べてその副作用は少なくなっています。しかしながら、抗精神病薬ですので、他の精神病薬と共通の副作用を有しています。

(1)錐体外路症状(EPS:ExtraPyramidal Symptoms)

 延髄には、錐体という筋肉を動かす司令塔があり、そこから筋肉に向けて神経の線維が通っています。それを錐体路といいます。錐体路系は自動車で例えるとアクセルです。延髄からは、筋肉を動かす指令だけではなく、『ちょうど良い位置で止める』指令も線維を伝わって出ています。その神経線維群が通る道を錐体外路と言います。錐体外路系は自動車で例えるとブレーキになります。このアクセルとブレーキをうまく制御することで、我々は運動を円滑にしています。

 この錐体路系、錐体外路系は黒質線条体を通過します。黒質線条体は、黒質から大脳基底核までをつなぐ経路であり、正常な黒質線条体経路では、コリン作動性神経による興奮と、ドーパミン神経による抑制との均衡がとれており、運動が調整されています。

 抗精神病薬によって、ドーパミン受容体が過剰に遮断されてしまうと、アセチルコリンの遊離を抑制出来なくなり、興奮の信号が過剰に伝達されてしまいます。その結果ドーパミン神経による抑制が効かなくなり、運動の調整機能が破綻し錐体外路症状が生じます。錐体外路症状は、黒質線条体のドーパミン受容体の78%以上を抗精神病薬が遮断したときに起こる副作用と言われています。

【主な錐体外路症状】

①振戦(手指の震え)

②筋強直(筋肉のこわばり、スムーズに手を開けないなど)

③ジストニア

 筋緊張が以上となり強直、捻転が生じ奇妙な姿勢となる。

④アキネジア

 随意運動能力の欠如、または喪失による運動不能な状態。無動症。

⑤アカシジア

 手や足に違和感が生じ、特に『足がソワソワする』など足の不快がひどいために歩き回り、じっと座っていられない(鎮座出来ない)状態。

⑥ジスキネジア

 絶えず口をモグモグと咀嚼運動のように動かしたり、舌を出したり戻したりを繰り返す。ストレスや緊張が髙と症状が悪化する。

 錐体外路症状は、直接命に関わるものではありませんが、患者さんにとっては非常に苦痛を伴います。臨床ではアカシジアに苦しみ、抑うつ的になる患者さんもおられました。錐体外路症状が生じた場合、まずは原因薬物(抗精神病薬)の減量が試みられます。精神症状的にどうしても抗精神病薬の減薬が出来ない場合は、錐体外路症状が少ない他の薬剤に変更することも検討されます。具体的には、MARTAであるオランザピン、クエチアピン、partial agonistであるエビリファイなど。

 また、一時的な対応として、抗コリン薬を処方することもあります。具体的には、抗パーキンソン病薬であるビペリデン(アキネトン®)、プロフェナミン(パーキン®)、トリヘキシフェニジル(アーテン®)などが挙げられます。その機序としては、抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制し、ドーパミン神経の活性が相対的に上がることで、ドーパミンが増え、錐体外路症状が改善すると考えられています。

 しかしながら、お薬によって生じた副作用をお薬を使って治すという行為はあまり推奨されません。薬の量が増えるに従い、副作用も増えてしまうからです。また、抗コリン薬は、それ自体に精神作用があり、幻覚・妄想、せん妄を引き起こす可能性があります。また、悪性症候群など命に関わる副作用が起こることもあるため、可能な限り原因薬剤の減量または変更で対応することが好ましいと思われます。

(2)過鎮静

 精神症状を抑え、静穏な状態に戻すことを鎮静と言います。抗精神病薬が効き過ぎたり、量が多すぎたりすると、鎮静が行き過ぎた状態『過鎮静』となり、眠気・ふらつき、倦怠感、疲労感が生じるようになります。患者さんにとって、こうした状態は非常に不快であり辛い状況であるため薬や主治医に対して不信感を抱くようになります。その結果、内服拒否や治療の中断につながってしまい、結果として精神症状が悪化してしまします。

 抗ヒスタミンH1作用により眠気が生じ、抗ムスカリンM1作用により認知障害、抗アドレナリンα1作用により過鎮静が生じます。

(3)高プロラクチン血症

 乳汁の分泌をホルモンであるプロラクチンは、脳下垂体前葉から分泌されます。脳下垂体は視床下部によってコントロールされており、普段はドーパミンによってブレーキがかけられています。

 抗精神病薬によって漏斗下垂体系のドーパミン受容体が遮断されてしまうと、プロラクチンの産生が促進されるため、高プロラクチン血症となります。その結果、妊娠もしていないのに、胸が張ったり、乳汁が漏出したり、無月経になることがあります。また性欲が低下したり、男性であれば勃起障害が生じます。一番問題なのは、高プロラクチン血症が長期間続くことで、乳癌のリスクが高くなる、骨代謝に影響が出て骨粗鬆症になりやすくなることなどが挙げられます。

 高プロラクチン血症については、当然薬剤の量に依存しますが、私の臨床経験では、それ以上に個人差によるものが大きいと感じています。

 リスペリドンは、非定型抗精神病薬であり、定型抗精神病薬に比べて高プロラクチン血症を引き起こしにくいですが、非定型の中では高プロラクチン血症を比較的起こしやすいと考えられています。高プロラクチン血症が出現した際には、原則としてリスペリドンの漸減または中止を検討し、必要があれば他の抗精神病薬に変薬を行います。

※高プロラクチン血症については、こちらのサイトに詳しく書いています。

(4)性機能障害(ED)

 抗精神病薬は、興奮を制御するお薬ですので、個人差はありますが性的な興奮も抑制されます。抗精神病薬は、ドーパミンやセロトニン以外の神経伝達物質であるノルアドレナリンの機能も低下させ、勃起障害、射精障害など性機能障害が生じます。抗精神病薬の内服を開始して数年経ってから性機能障害が生じることも多々あります。患者さんにとっては、恥ずかしいと感じたり、相談しにくいと感じることが多いので、医師はきちんと配慮をしなければいけません。

(5)起立性低血圧(ふらつき)

 抗精神病薬の種類によっては、アドレナリン受容体α1に強く作用するものがあります。

 α1受容体は、刺激が入ることで血管収縮を行い、血圧を上昇させます。抗精神病薬によってα1受容体がブロックされると、血圧を適正に上昇させることが出来ず、脳に送り出す血液が不足し、相対的に脳虚血状態となってしまうため、立ちくらみやめまいなどの症状が出現します。重症になると意識消失が生じ、外傷や骨折の危険性もあります。

(6)悪性症候群

 これは抗精神病薬に限らず、向精神薬における副作用で最も重篤な副作用であり、絶対に見逃したらいけない副作用です。頻度は極めて稀です。正確な機序はまだわかっていませんが、『脳内のドーパミンの動態が急激に変化すること』が機序の中心にあると考えられています。臨床では、しばしば薬剤調整を行った際、特に急な減薬・増薬を行った場合に生じることが多いです。第二世代の非定型抗精神病薬ではほぼ生じることは少ないですが、それでも可能性はゼロではないので、注意が必要です。

【悪性症候群の症状】

・40℃以上の高熱

・筋肉の強剛、錐体外路症状(筋肉のこわばり、震え、痙攣など)

・血中CPKの上昇(横紋筋融解症が生じる)

<前駆症状>

・発汗

・頻脈

・無動・緘黙

・筋硬直

・振戦

・言語障害

・流涎(唾液分泌過多)

・嚥下障害

 ※この前駆症状を見逃さないことが重要です。

【悪性症候群の治療】

・全ての向精神病薬を中止

・輸液などの身体管理を行いながら、ダントロレンナトリウム(ダントリウムⓇ)を投与

※悪性症候群については『悪性症候群について』をご覧下さい。

(7)不整脈

 投与患者の4.6%で不整脈(心房細動、心室性期外収縮等)が認め有られたとの報告があります。右脚ブロック、洞性頻脈、上室性期外収縮、心室性期外収縮の報告もあるため、もしもこのような症状が出現した際に歯、投与 を中止するなど適切な処置を行わなければ行けません。何よりも、投与前に上記心疾患がないか、心電図検査(出来れば心エコー検査)を行い確認することが大事です。


7.LAI(Long Acting Injection)

※デポ剤にについてはこちらに詳しく書いています。

 リスペリドンには、『リスパダールコンスタ筋注用』というLAI(デポ剤)があります。2週間毎に筋肉注射し、投与量は25mg、50mg、75mgです。リスパダールコンスタは、投与後血中濃度が上昇するまでに3週間程かかるため、導入後(投与開始後)は、リスペリドンの内服を3週間は併用する必要があります。3週間後以降は中止します。

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精神科(レンタングル大)
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